今夜BS日テレで放映『小さな恋のメロディ』の悲しい小さな都市伝説

「そんなに長く愛せる?」(メロディ)

今晩10月12日(20時~)BS日テレで映画『小さな恋のメロディ 』が放映されます。

『小さな恋のメロディ』といえばビージーズの音楽がバックグラウンドミュージックをはるかに超えて、物語の一部として情感豊かに使われていたことでも有名です。オープニング、明け染めるロンドンの街に流れる「イン・ザ・モーニング」、ヒロインであるメロディ・パーキンスちゃんのテーマとして大ヒットした「メロディ・フェア」、明るくちょっぴりせつないガキ大将トム・オーンショー君のテーマ「ギヴ・ユア・ベスト」、恋するダニエル・ラティマー君の気持ちを代弁するラブソング「ラヴ・サムバディ」、そして緑そよぐ墓地でのダニエルとメロディの初めてのデートシーンに流れて忘れられない余韻を残す「若葉のころ」等々…。

今日はこの墓地のシーンについての、ちょっと悲しい小さな都市伝説をご紹介します。映画を見た方はきっと覚えているでしょう。「若葉のころ」を歌うバリーの声が背景に遠のいて画面に鳥の声や風のそよぎと一緒に、若葉萌えるころの墓地の空気感が戻ってきます。若い(というより小さな)ふたりの話題は「愛する」ということ。「どうしてわたしが好きならわたしに言ってくれないの」とメロディちゃんがダニエル君をせめるあたりは、とっても素直でまっすぐで愛らしい。 

この墓地の場面で、メロディは目の前にある墓碑を読み上げます。それは仲睦まじい人生を歩んだのちに相次いで世を去ったある夫婦の墓碑でした。

愛する妻のエラ・ジェーン ここに眠る

50年の幸福に感謝する

1893年7月7日 永眠す

ヘンリー・マクデビット エラに加わる

1893年9月11日

そしてダニエルとメロディのふたりのやりとり:

メロディ:奥さんの死後 わずか2ヵ月よ

ダニエル:うんと愛してたんだ

メロディ:50年の幸福 50年って長いわね

ダ:休暇をのけて150学期だ

メロディ:愛し続ける? むりだわ

ダニエル: もちろん もう一週間も愛してる

と、ここでバリーがまた"ふたりのために育ったリンゴの木…”と「若葉のころ」を歌い始めるのでした。

さて、小さな都市伝説になっていると書いたのはここでメロディが読み上げる墓碑の中の日付けです。50年間連れ添った愛妻エラ・ジェーンを亡くしたのち、ヘンリー・デイヴィス・マクデビット氏はわずか2か月後に亡くなっているわけですが、その日付けはなんと9月11日。映画が撮影されたのは1970年。まさかそれから数十年の時を経てこの日付けが世界にとって悲しい記念日になることを映画の製作陣もメロディを演じたトレーシー・ハイドも知る由もなかったでしょう。

もうひとつ悲しい偶然がありました。ここで語られる妻の命日は7月7日。日本人にとっては織姫と彦星の悲恋にちなむ七夕、ちょっとロマンチックな印象のある日付けです。そのことをあるイギリスのファンに話していて、ふと気づいたことがあります。7月7日というのは2005年7月7日に起きたロンドンの同時多発テロの日付けだったのです。

つまりここで「時の中でも変わらない愛」の証としてメロディが読み上げたふたつの日付けはふたつとも、まだその段階では想像もできなかったふたつの多発テロ事件の日付けだったわけです。

そして、ここにもうひとつ小さなせつない偶然があります。クリント・イーストウッド監督の映画『ヒアアフター』は喪失と再生をテーマにしたちょっと不思議な物語ですが、登場人物のひとりはふたごの兄弟を失って苦しむ12歳の少年。ビージーズのファンならすぐにロビンとモーリスを思い出すことでしょう。自分の半身ともいえる存在を失って苦しむ少年が、他界したふたごのかたわれによって救われるエピソードが映画中に出てきます。少年は乗るはずだった地下鉄に乗らず、テロに巻き込まれずにすむのです。そしてここで語られているのがまさにこの7月7日のロンドン爆弾テロなのです。

一度、ロンドンに行ったときにこの「若葉のころ」の場面が撮影された墓地を訪ねたことがあります。緑燃える若葉のころではなく紅葉が日に透ける静かな秋の午後だったせいか、やや寂しい印象でした。けれどもちょうどそこにまるで50年後、60年後のふたりはこうなっているだろうかと思われるような、仲睦まじい白髪のカップルが通りかかって、まるで時のはざまに入り込んだような不思議な気がしてしまいました。

10月22日発売予定の遺作となったソロアルバムの中で、2003年に亡くなったふたごの弟モーリスをしのび、来し方をふりかえってロビン・ギブは歌っています、「酒と薔薇の日々は過ぎていく」(「デイズ・オブ・ワイン・アンド・ローゼズ」)と。そして1969年に発表された「若葉のころ」でバリー・ギブは歌っています、「わけなんて聞かないで/時は流れすぎた」と…。

流れる時の中で、どうかこれ以上悲しい記念日が増えることがありませんように。

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