訳詞コーナー:メロディ・フェア
『小さな恋のメロディ』のヒロインのテーマともいうべき「メロディ・フェア」は、日本では映画の大ヒットを受け、シングルとして大ヒットした曲です。
そして1971年に映画とサントラが大ヒットしたおかげで、1972年3月、トラファルガー・ツアーの一環としてオーストラリア方面から北上したビー・ジーズは初の日本公演を果たしてくれました。
コンサートでは、当然、「メロディ・フェア」も歌われましたが、当初、この曲を歌ってほしいという日本側からの申し入れにバリーは難色を示したそうです。もともと予定に入っていなかった曲ですから、完璧主義者で知られるバリーとしては出来栄えに不満があったのでしょう。
しかしなんといっても前年各局の洋楽・洋画音楽チャートのトップを数か月にわたって独占し続けた大ヒット、この曲抜きでの日本公演は考えられませんでしたから、バリーも日本のファンのために折れてくれたそうです。そんなわけで、生で「メロディ・フェア」を聞くことができた日本のビー・ジーズ・ファンは幸せ者ですね。
映画ではヒロインの登場シーンに使われていました。もともとは1969年に発表されたビー・ジーズの2枚組アルバム『オデッサ』に収録されています。ビートルズの「エリノア・リグビー」を念頭に書かれた曲だということで、その段階では映画とはまったく無関係でしたから、どうやら映画のヒロインであるメロディちゃんよりはもう少し年上の女性をイメージした歌であるようです。
泣き顔のあの娘(こ)は誰だろう
あれこれと思いを巡らせて
あの娘にはわかっている
人生は競走だと
でも悲しい顔はいけないよ
メロディ・フェア 髪をとかしてごらん
君もきれいになれるとも
メロディ・フェア
忘れないで 君は女
メロディ・フェア
忘れないで 君はほんの女の子
窓辺のあの娘は誰だろう
雨が降るのを見つめてる
メロディ 人生は雨じゃない
メリーゴーラウンドみたいなものなのさ
メロディ・フェア 髪をとかしてごらん
君もきれいになれるとも
メロディ・フェア
忘れないで 君は女
メロディ・フェア
忘れないで 君はほんの女の子
初めて劇場で見たときに、「メロディ 君は女」というリフレインに重なってヒロインのアップがあると、実は軽い違和感を覚えました。なんといっても演じていたトレイシー・ハイド(かわいいなあ~)は当時まだ11歳。ティーンエージャーでさえありません。(ちなみにティーン=十代ではありません。11はeleven、12はまだtwelve、ティーンエージャーというのは語尾に「ティーン」がつく13歳(thirteen)からです)
人生に少し疲れた、感じやすい孤独な女性への励ましの歌といった風情のこの歌、けれども映画の中ではまだおそらく悲しみさえ知らない若い無垢なヒロインへの応援歌として、とても効果的に使われていました。ヒロインの初登場が窓辺のシーンなのも、やっぱりこの歌を使うという発想から生まれたのではないかと思います。
もうひとつ、ビー・ジーズの歌詞には時として、単純化された深みのある言葉づかいにトラディショナルなフォークソングの影響が感じられますが、この歌もそのひとつ。『マイ・フェア・レディ』という映画もあるように、「フェア」には「美しい」という意味がありますから、「フェア」というのは名字やミドルネームではなく、「美しいメロディ」という形容詞かもしれません。
英語の歌詞では「脚韻」の存在が大きく、どう意味を合わせながら韻を踏んでいくかというところに書き手の腕の見せどころのひとつがあるわけですが、ここでは「フェア」と「髪(ヘア)」がきれいな対をなして、孤独な少女に対する歌い手のやさしいメッセージを伝えています。また、ここにはサイモンとガーファンクルが現代的なひねりを加えて取り上げたトラディショナルなフォークソング「スカボロ・フェア」(ここでのフェアは「市(いち)」という意味です)の響きも聞きとることができます。ちなみにビー・ジーズ本人たちは地名を冠した名曲「マサチューセッツ」を書くにあたってこの「スカボロ・フェア」を意識したそうです。(スカボロはイギリスの地名です)
それからトリビアをもうひとつ。デビュー後、またたく間に名も実もあるアイドルとしてトップの地位にかけあがり、その後、ドラッグ問題などを経て不遇のうちに若く亡くなったギブ兄弟の末弟アンディが、少年時代に初めて結成したバンドは、その名もメロディ・フェア(Melody Fayre)でした(綴りが違います)。
英語の歌詞はこちら。「メロディ・フェア」が収められたオリジナルアルバムの『オデッサ』は、残念ながら現在は日本盤は出ていないものの、リマスターされたアナログ版(Odessa (Reis) (Ogv) [12 inch Analog] )やアウトテイクも収められたファン必携のデラックス版(Odessa (Dlx) )などで入手可能です。ここではYouTubeにアップされた貴重な1972年3月23日渋谷公会堂での演奏(オーディオ)へのリンクをご紹介しておきます。
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