バリー・ギブの『イン・ザ・ナウ』ロング・インタビューbyティム・ロクスボロ Part 7

Sunday Lunchで放送されたバリーとのインタビュー音源

連載ロング・インタビュー、シリーズの第7回はアルバム『イン・ザ・ナウ』のレビューです。

ビー・ジーズのバリー・ギブ、復活を示す優れたアルバム『イン・ザ・ナウ』の秘密 アルバム・レビュー (連載第7回)

ここまでインタビューを聞き書きした一連の記事(レポート1~6)を読んでいただいたが、今回はインタビューの音源をお届けする。ニュージーランドのラジオ局コーストの「サンデー・ランチ」ショー・スペシャルで放送されたものだ。
次に掲げるのは、僕がこのインタビューのYouTube版につけた解説である。

“このインタビューでバリーはさまざまな点について語っている。以下にざっとあげてみると……(長男スティーブンと次男アシュリーと一緒に書いた)アルバム『イン・ザ・ナウ』や、2017年のツアーが2013/2014年のミソロジー・ツアーとはどう違うのか、グラストンベリーでのコールドプレイとの共演、「ユー・シュッド・ビー・ダンシング」の驚くべき裏話、オーストラリアのクイーンズランドで過ごした子ども時代がバリーに大きな影響を及ぼした理由、ティーンエージャー時代のバリーがふられてばかりいた理由、バリーのプロフェッショナルとしての人生にリンダ夫人が果たしている役割、母堂から音楽上のアドバイスを受けたことはあったのかどうか、ビー・ジーズには変わった構成の曲が多いこと、これまでの業績すべてに満足しているのかどうか、そして弟たちロビン、モーリス、アンディについて見るとてもリアルな夢について、等々。”

このインタビューをした段階では、僕はまだバリーのニュー・アルバム『イン・ザ・ナウ』をごく一部しか聴いていなかった。リリースから3週間を経て、どの曲も聞きこみ、その素晴らしさに触れたいま、『イン・ザ・ナウ』がバリーにとって後期黄金時代の幕開けになってほしいと思う。ビー・ジーズの研究者の中にはバリーの息子スティーヴンとアシュリーの貢献をたたえる者もいる。僕は、いつか、スティーヴンとアシュリーに曲作りのプロセスについて聞いてみたいと思っているが、一般には、スティーヴンは一部の曲でバリーのサウンドにロックっぽさを加え、アシュリーは歌詞の面でより直截で心情吐露型の方向性にバリーをいざなったのではないかと見られている。無論、これはファンの推測にすぎないし、曲がどう生まれて育ったかについて、彼ら三人がどう思っているかという点には興味をそそられる。
僕が本当にすごいと思うのはこのニュー・アルバムの後半である。トラック6の「クロス・トゥ・ベアー」は長さ6分に及ぶミニ叙事詩で、ガンジー、クリシュナムルティ、イエス・キリストなどが出てくる。バリーの宗教観や世界の現状についての考えがかなり長いフック(let’s hit rewind…<巻き戻しボタンを押そう>)と一緒に何度も繰り返されるので、最初に聴いたときから、きっと僕はこの曲は繰り返し聴くことになるんだろうな、と思った。
トラック8の「シャドウズ」は、ロイ・オービソンの曲中でももっとも悲しい曲が持っていた旋律と感情によるドラマを意図的に持たせてある。この曲はバリーたち兄弟が自分たちの好きなパフォーマーのスタイルで曲を書くというすごい才能を持っていたことを改めて思い出させてくれる。最終的には自分たちが歌うにしても、ABBAが「アイ・キャント・ハヴ・ユー」を、オーティス・レディングが「ラヴ・サムバディ」を、アンディ・ウィリアムスが「傷心の日々」をレコーディングしたら、という発想さえあればギブ兄弟にとっては十分で、彼らはそこから自分たちの殻を破っていったのだ。
けれども僕が「シャドウズ」をすごいと思うのは、ラスト90秒のスペイン風のインストゥルメンタル部分の信じられないほどの美しさゆえだ。これはもっとも素晴らしいギブ・ソングズのアウトロとして「スピリッツ・ハヴィング・フロウン」と一、二を争うのではないか。
次にきわだっていると思うのが「Not even one brave soul is gonna walk that mile from the curse to the legacy, but I must try (呪いからレガシーへといたるあの道のりをどんな勇者だって歩こうとはしないだろうが、僕はやるしかない)」という意味ありげな歌詞が入った、トラック10の「ダイヤモンズ」だ。もっと先へ行くと、この部分は「Not even one brave man is gonna walk that mile from the hearse to the funeral, but I don’t cry(どんな勇者だって弔いの馬車から葬儀までの道のりを歩こうとはしないだろうが、僕は泣かない)」と微妙に変わっている。
ここでいう「呪いからレガシーへ」とは、三人の弟すべてを失った悲しんでいたバリーが、音楽史にビー・ジーズの立ち位置を定める作業をソロで再開しようと思えるようになるまでの、心の道程を指すのだろうか? それとも80年代にひどい侮蔑を体験したビー・ジーズが、90年代末に評価という意味でカムバックを果たしたその道程を指しているのだろうか? バリーはこの「呪いからレガシーまで」の道のりを歩いて、1979年にかの悪名高い「打倒ディスコ(ディスコってむかつく)」焚書事件で自分のレコードが燃やされるのを見るところから、現在ではポピュラー音楽市場の主な功労賞(ブリッツ、グラミー、アメリカン・ミュージック・アワード、ロックン・ロールの殿堂、ソングライターの殿堂等々)をすべて手にするところまでいった。
「ダイヤモンズ」はどんどんテンポが変わって、フォークバラードや70年代初期のシンガー/ソングライターの弾き語りからミドルテンポのロックソングまでサウンドの振幅が大きい。現時点でたぶんアルバム中で一番気に入っている曲だ。
その上で、メジャーなアーティストに一番カバーしてほしい曲はトラック12の「虹のおわりに」である。これは感情のこもったポップソングの頂点ともいえる作品で、「この季節にぼくたちはお互いを思う」という一行など、まるでクリスマスソングのようだ。多くのビー・ジーズ・ファンがすでに知っているように、この曲は実際にはロビンについて書かれた。ロビンが死の床でこん睡状態にあるときに、バリーがこの曲の一部を歌って聞かせたのである。この曲はバリー、ロビン、モーリスが成し遂げようと決意したことのすべてを成し遂げる物語であり、三人は「虹のおわりに」たどりついたのだ。非常に悲しいけれども、基本的に満たされた思いが流れている。スタンダードの趣があるこの曲、マイケル・ブーブレさーん、この曲を世界中で歌われるようなご自分のテーマソングにしては? 考えてみてくださーい。
『イン・ザ・ナウ』のデラックス版には優れたボーナス・トラック3曲が入っている。バリーと息子たちが2006/2007年に書いた曲だ。「グレイ・ゴースト」(トラック13)は後に2011年の東日本大震災(津波)の被害者に捧げられ、このアルバム全体についても言えることだが、サウンド面(シタールと思われるものの使用)とメロディの面(カウンターメロディのバックグランド・ボーカル)が興味深い。と、ちょっとつまらない言い方になったが、つまり、僕はこの曲が好きなのだ。
一番聴いているのは後半の曲だが、タイトルトラック「イン・ザ・ナウ」(トラック1)のスムースなR&B、「グランド・イリュージョン」(トラック2)のかっこいいギター・リフ、それにブルース・スプリングスティーンの影響がある2曲「ホーム・トゥルース・ソング」(トラック5)と「ミーニング・オブ・ザ・ワード」(トラック6)は、どれも強力で、好きといえば前半の方が好きかもしれない。スプリングスティーンに関しては、バリーが「虚勢と野心」の曲という「ホーム・トゥルース・ソング」には不屈のブルースにパワーを得るバリーの姿がある。
あえて推測すると、「ミーニング・オブ・ザ・ワード」はバリーが2014年ごろにブルース・スプリングスティーンを聞きこんだ体験から生まれたのじゃないだろうか。ブルースがオーストラリアのステージで「ステイン・アライヴ」を歌ったのを受けて、ミソロジー・ツアーの全米公演で「アイム・オン・ファイア」をカバーしたバリーは、かつてないほどみっちりとブルースを聴きこんだ。そう考えると、「ミーニング・オブ・ザ・ワード」のきれいな音や最後のファルセットのアドリブは、いい意味で、ブルースの「シークレット・ガーデン」や「アイム・オン・ファイア」等の曲を思い出させる。
まだ『イン・ザ・ナウ』を買っていない人は、ぜひ買ってほしい。70歳の天才ソングライターの復活を一時的なものに終わらせたくないではないか。インタビューのリンクをトップに貼っておく。ぜひ聴いてみてほしい!           - ティム・ロクスボロ

 「ダイヤモンズ」がきわだっているというのは同感です。特にティムさんが引用した箇所はバリー自身の決意の表明ともとれる内容なので、近くSongs(日本語訳)セクションで取り上げて論じてみたいと思っています。

なお、ここまでの7回の中で触れられていない内容がインタビュー音源には入っています。YouTubeの紹介文に書かれている「弟たちについて見るリアルな夢について」等々です。シリーズの最終回になる次回第8回では、インタビュー音源から、これまでの7回の記事からは漏れた内容をまとめてご紹介しようと思います。

{Bee Gees Days}

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