【2020年6月】新作を発表したヴィンス・メローニーのロング・インタビュー(その2)
これからは「ディスコ時代」のビー・ジーズのカバーも発表したい
JB うまくいくといいですね。ここで話をぐっと現在に近づけると、カーラ・オルソンの「Shackles and Chains」に参加していますね。カーラとはどういうつながりですか?
ヴィンス 1972年だと思うのですが、アメリカに行ったときにカーラのご主人ソール・デイヴィスに会って意気投合しました。ソールはビー・ジーズの仕事をしていて、ツアーにも同行していました。ツアー同行記みたいなものを書く仕事を依頼されていたんです。プログラム用とかだったのか、よく覚えていないのですが。とにかくソールと知り合って、しばらくしてアメリカに滞在する機会があったときによく会いに行ってたんですね。その後、彼はカーラと知り合って結婚したので、ぼくもカーラとジャムセッションをするようになり、以来、親しい友人関係が続いています。
最初、ソールに会いに行って、その後ニューヨークに息子に会いに行こうと思っていたんですが、ソールから電話が来て、「6月4日にロスにいる?」と訊かれたので、「なんで?」と訊いたら、「バリーがその日ハリウッド・ボウルでミソロジー・ツアーの最終日のコンサートをするんだよ」って。だから、「うん、それならぜひ」と返事しました。もちろん、ソールはディックの親しい友だちなので、ディック・アシュビーに「ヴィンスも来るよ」って話してくれて、ハリウッド・ボウルでは素晴らしい席を準備してもらえました。そこで生まれて初めてピーター・ヌーンにも会いました。ソールはピーターと知り合いで、ピーターはジョン・ファラーと一緒に来ていました。ジョンのことはオーストラリアにいたころから知っていました。ジョンは素晴らしいギター奏者で、オリヴィア・ニュートン・ジョンの曲をいろいろ書いています。オリヴィアもコンサートに来ていたので、会うことができました。もう何年も会っていなかったので、とてもうれしかったです。
「Shackles and Chains」の作者の名前はなんだっけなあ…。
JB ジョン・スチュアートです。
ヴィンス ああ、そうでした。ロスの外れのクラブでライヴがあって、みんなで行ったんんですが、出演者が全員自分の曲を1曲歌うというイベントだったんです。で、カーラもこの曲を歌う予定にしていて、「来てギターを演奏してくれない?」っていうので、「うん、いいよ。どんな曲か聞かせてよ」っていったんです。素晴らしい夜でした。とっても小さなクラブでカーラとふたりで演奏しました。
その後、カーラが「これで曲も知っているわけだし、スタジオ入りしてギターを入れてくれない? 私、あの曲をアルバムに入れようと思っているの」と言ったんです。で、ぼくもギターを演奏しました。その後オーストラリアに戻ってから、もうちょっとうまくやれるな、という気がしてきたんです。で、カーラに、「音源をMP3ファイルで送ってくれよ。ぼくのギターを入れなおすから。ギターの音を送るから、そっちで入れてくれたらいい」って言いました。で、この二番目の演奏の方が自分ではずっとしっくりきました。すごく良い曲に仕上がって、カーラのためにもよかったなと思います。カーラはたくさん素晴らしいアルバムを出していますが、このアルバムも素晴らしい出来でした。
15曲目 「Shackles and Chains」(カーラ・オルソン、ヴィンス・メローニーがギターで参加)
JB さて、ここでいよいよ、最新シングル「Women (Make You Feel All Right)」についてうかがいます。ここにも素敵な絆の物語がありますね。これってもともとイージービーツの曲なんですね?
ヴィンス そうです。
JB イージービーツとはどのぐらい親しかったんですか?
ヴィンス すごく親しくて、仲良くしていました。ビリー・ソープ・アンド・ジ・アズテックスとイージービーツは1964年か1965年に一緒にオーストラリア・ツアーをしたんです。当時、ずいぶんツアーをしていたんです。ひとつのライヴに4~5組のアーティストが出る形式で田舎をまわるんです。そういうツアーのひとつにイージービーツも参加していたので、一緒に旅まわりをしました。すごく親しかったので、イギリスに行ったときにもギターを貸してもらったりしました。よく訪ねていったりしていて、彼らの曲は大好きだったんです。すごい曲をいっぱい書いていたグループです。
で、この「Women」という曲がもともと大好きで。リフがすごいんです。あの感じが大好きだったので、友だちのジョナサン・レーが伝説のプロデューサーっていわれてて「Friday on My Mind」のプロデューサーだったシェル・タルミーとレコーディングしていたときに、電話で、「ビー・ジーズの曲をレコーディングしているよ。ストレンジャー・イン・ア・ストレンジ・ランドってバンドが「リング・マイ・ベル」っていうビー・ジーズの曲を吹き込んでいるところなんだ。君がこっちに来たらギターを弾いてくれないか、って言うんだけど」って。で、ぼくは「いいよ、やるやる」って答えました。「君が曲を指定してくれたら、彼らがこちらでバックの音をレコーディングするっていうんだ。なんて曲かというのと、キー、それにどんなアレンジがいいかを教えてくれたら、こちらでバックの音を作るよ」って。それでぼくは、「それはいいな。じゃ、ぼくは『Women』をやるよ」って答えたんです。行ってみたら、彼ら、ほんとに良い人たちで、素晴らしいプレイヤーでした。良い仕事をしてくれました。カタソニックという良いスタジオで、楽しくやれました。ギターを演奏し、ヴォーカルもやって、スタジオを出たときは満ち足りた気持ちでした。ぼくはイギリスに来なくてはならなかったので、あとはジョナサンとマーク・ウィートンに任せました。ふたりはミキシングした音源をいろいろ送ってくれて、「どれが気に入った?」と訊いてくれたので、ぼくが選びました。最終的に完成したバージョンがぼくはとても気に入っていて、手ごたえも素晴らしいです。みんなが気に入ってくれて、「なんじゃ、こりゃ」なんて言った人はひとりもいません。うれしいですよね。
JB そうですね、わかります。「Women」には本物のバイタリティがあふれています。さて最後に訊きたいのは、このひどい状況から抜け出せたら、ライヴやレコーディングの計画があるかどうか、ということです。
ヴィンス それはもちろん! いくつか計画は立てていて、ジョナサンとも常に連絡をとりあっています。ジョナサンはぼくの右腕ですね。とにかく自由に動けるようになって、飛行機も飛びはじめたら、ぼくはロサンゼルスに行きます。
たくさん曲はあるので、できたらまたスタジオでボーカルを吹き込みたいんです。一流の機材をそろえているので。ぼく自身、かなり良い機材を持っているんですが、ジョナサンはもっとすごいのを持っているんです。それからぼく、好きなビー・ジーズの曲をたくさんレコ-ディングしたんです。初期の作品ではありません。それはそれで、またバンドと一緒にレコーディングを開始したら取り組みたいと思っています。いま考えているのはディスコ時代の曲で気に入っているものなんです。でもすっかり変えてあります。ぜんぜん違う感じになっていて、違うキーで歌っています。高音も、ファルセットもなし。バックのハーモニーもなく、バックにかるーくストリングスを入れた曲があったりします。
だからマークのスタジオに行きたいんです。マークには話してあります。もうちょっと手を入れたいなと思っているヴォーカルをやり直して、ミキシングしたいんです。中に1曲、クレムが参加できる状態なら、彼にドラムスをやり直してもらいたい曲もあります。とにかく発表したいですね。もうかなり長い時間をかけてきたプロジェクトなので。5曲ばかり、EPにしようかなと思います。
JB それは素晴らしい。みんな無事で、早く自由に動けるようになるといいですね。ヴィンス、今日は本当に楽しかったです。「Women」のリリースの成功をお祈りしています。それにギブ兄弟と一緒に仕事をしていた信じられないような時代を含め、あなたのキャリア全体について話していただいて、本当にありがとうございました。
ヴィンス ジェイソン、こちらこそ楽しかったです。今日はお招きありがとう。またぜひ近いうちにお会いしましょう。
JB ぜひぜひ!
ヴィンス ありがとう!
16曲目 「Women (Make You Feel Alright)」(ヴィンス・メローニー)
ここでヴィンスのニューシングルのリンクをもう一度ご紹介しておきます。「サッチ・ア・シェイム」もそうですが、彼のヴォーカルにもなんともいえない味がありますね。いぶし銀の風格ってこういう感じかなあと思いますが、相変わらずのカッコよさです。
ロング・インタビュー(その1)は輝かしい青春の物語という感じで、訳していてちょっとまぶしい思いがしました。夢を抱いて海を渡った若者たちが、夢以上の夢かと思うような成功をおさめ、努力を開花させる物語です。けれども不協和音が入り込み、「どんな明日になるかなんて知らなかった/悲しみも知らなかった」と「傷心の日々」で歌われたような分断と悲しみが成功とともに訪れます。改めて思うのは彼らの異常なまでの若さです。ヴィンスの古着をツケで買っていたようなモーリスが執事を抱えるようになり、「同じベッドに寝転がって将来の夢を語り合った」とバリーが振り返るような兄弟間の親密さは失われます。この段階でロビンとモーリスはティーンエージャー。バリーでさえ20歳をいくつも過ぎていません。要するに高校生、大学生ぐらいの時期なのです。
面白いのは、フィーバー直前の時期にバリーを訪ねて一緒に曲を書いたときのヴィンスの体験です。この時期のバリーについてアリフ・マーディンだったかが、「ある時点でバリーは時代とぴったりシンクロしてしまった」というようなことを言っていましたが、当時のバリーが60年代末のバリーに比べてさえ、ある意味で「進化」しており、神がかったとさえ言えそうな状態に入っていたことが「2年間スタジオでバリーと仕事をした経験のある」ヴィンスの目から驚嘆の念をこめて語られます。比較して、60年代の五人組はよりグループとして機能し、ある意味で思われていた以上に「共同作業」だったのでしょう。その輝かしい時代が過ぎ去ることを歌ったのが「サッチ・ア・シェイム(なんて残念なことだろう)」という歌だったわけです。
それにしてもそのお蔵(引き出し?)入りの2曲、もったいなーい、のでは? 早く陽の目を見てほしいものです。
また、ヴィンスが現在取り組んでいるのが「ディスコ時代」の曲だというのは、ちょっとびっくりですが、アレンジの話を聞くだけで興味をそそられます。ヴィンスがどの曲をどう料理するのか、楽しみですね。ロビン家のスペンサー・ギブとフィーバー時代の曲のカバーの話になった時に、彼が「同じことを真似するようにやったって意味がないよね」といったのを思い出します。そこにはミュージシャンとしての誇りと原曲への愛情が感じられました。ビー・ジーズの曲を語るヴィンスにも同じ誇りと愛情を感じます。状況が改善されたらスタジオ入りしてまとめたいというヴィンスのEPの発表が待たれます。
【お知らせ】最初、記事中では「Women (Make You Feel Alright)」のアマゾンのリンクをご紹介していたのですが、発売元のレコードレーベルで問題があったということで、このレコードはAmazonその他から今日付けで削除され、現時点では記事中でもご紹介したBandcampのリンクだけが働いています。ご購入希望の方はBandcampのリンクへ飛んでご購入ください。
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