訳詞コーナー:「オンリー・ワン・ウーマン」(マーブルズ)

マーブルズ「オンリー・ワン・ウーマン」ドイツ盤シングルのジャケット
マーブルズ「オンリー・ワン・ウーマン」のドイツ盤シングルのジャケット

ファンの方なら経験があると思いますが、あるとき、ある歌が突然頭から離れなくなって、授業中や仕事中でも頭の中がStayin’ alive, stayin’ alive…状態になってしまう…そんなことはありませんか? 

特にビージーズの場合、キャッチーで印象に残るメロディが多いですから、一度、頭の中に住みこまれると、試験の最中などに勝手に頭の中で歌われたりして迷惑この上ない…。

このところ、私の頭にマーブルズの1968年のヒット「オンリー・ワン・ウーマン」が住みついて困っています。何しろあの人は声が大きいですから仕事中に頭の中であの「オ~ンリー・ワン・ウーマン」というリフレーンを歌われると困るんですよ~。

というわけで(どういうわけなんだか…)、今日はギブ兄弟の作品ではありますがビージーズ自身は歌っていない「オンリー・ワン・ウーマン」を取り上げることにしました。

十人のちっちゃなインディアン
ずらっと並んで立っている
きっとたくさんいるんだろう
だったらどうしておれにわかるんだ?

あの娘(こ)はただひとりの女(ひと)だったと
ただひとりの女だったと
おれが持っているのは愛するその人の写真

このおれの孤独を誰が知っている?
このおれの屈辱を誰が知っている?
ここの誰も教えてくれない
あの娘の名前を

だってただひとりのひとだったから
ただひとりのひとだったから
この写真の中にその人はいる

十人のちっちゃなインディアン
そして誰もいなくなった
そんなやつ きっとたくさんいるんだろう
だけど愛は消えない

だってただひとりのひとだったから
ただひとりのひとだったから…

マーブルズは1968年当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったビージーズの「弟バンド」というふれこみで登場しました。ビージーズの核がギブ三兄弟なら、こちらのトレバー・ゴードンとグレアム(日本ではグラハムという誤った発音が表記として定着しているようですが)・ボネットはいとこ同士という、ファミリー路線。ロバート・スティグウッドが売り出しに肩入れして、親交があったビージーズが曲を提供して、デビュー曲の「オンリー・ワン・ウーマン」がいきなり大ヒット。日本の雑誌でもアイドル風に取り上げられました。

なんでも当時のミュージックライフ誌の記事によれば、ロビンが引っ越したあとのアパートにマーブルズが入ったけれど、そこには「ポスターが4枚貼ってあるだけだった」とか。「ポスターが4枚」と聞いてははあんと思われた方もいると思いますが、なしてロビンは壁にポスターなんか貼ったまま引っ越していったか。答えは「four-poster」。ポスターが4枚ではなく、柱が4本ついて天蓋とかをかけられるようになった「四柱式のベッド」のことです。もともと部屋付きのベッドだったのか、大きくて移動は大変と判断したのか、ロビンは引っ越すときにベッドだけを置いていったのでしょう。

英語の歌詞はこちらですがところどころ実際に歌われている歌詞と明らかに違っており、例によって「こう聞こえるんだ(悪いか)」路線で訳させていただきました。後年、ハードロックのボーカリストに転身したボネットが録音したアルカトラス・バージョンの「オンリー・ワン・ウーマン」の方がマーブルズのオリジナル・バージョンより歌詞を聞き取りやすいようです。

十人のインディアンというイメージのもとはマザー・グース。映画化もされて名高いアガサ・クリスティの作品「そして誰もいなくなった」の元歌として知られるTen Little Indian Boysです。名前も知らずに別れた束の間の出会いの人こそ、「ただひとりのひと」だったと切々と歌い上げる中に、インディアンたちが、個々人としての顔がない群衆や取り巻きのイメージとして登場します。大勢の人に囲まれているけれど、その孤独な心の中を誰も知らない。でも名前も告げずに去った、写真の中にだけに面影が残るその人だけを思っている、というちょっとスターの孤独を思わせるような状況を歌ったラブソングです。

ふつうビージーズが書いた曲を他のアーティストが歌うと、「ビージーズが歌っていたらどうだったかな」と思ったりしますが、個人的にはこの曲はあまりにもボネットの個性がさく裂しているので、ちょっと他の人の声がイメージできません。バリーが歌ったら、ロビンが歌ったら、はたしてどうなのでしょうか…。

グレアム・ボネットはその後、ソロとしてもビージーズが書いた「Warm Ride」をヒットさせているのはご存じの通りです。ちなみにマーブルズは「典型的な一発屋」と呼ばれることもある通り、実力派でありながら、この「オンリー・ワン・ウーマン」のあと大きなヒットに恵まれず、その後、ゴードンは引退。ボネットは数年後にリッチー・ブラックモア率いるレインボウのボーカリストとしてハードロックに転身します。ハードロックを歌うボネットを見たのは「All Night Long」が最初でしたが、人相が変わっていて(?)、最初はマーブルズのあのグレアム・ボネットだとは気づきませんでした。気づいたのはやはりこんな声で同じ名前の人がそんなにぞろぞろいるわけないなあと思ったからでありました。

それから「オンリー・ワン・ウーマン」は個人的には前奏が好きなんです。バリーとモーリスとコリンがバックに参加していたということですから、当時のビージーズの音の雰囲気をよく伝えていると思います。

「オンリー・ワン・ウーマン」が含まれるアルバム Marblesは、現在CD化されており、このほかにも「I Can’t See Nobody」(これは彼らの二弾目のシングルになりました)、「By The Light Of A Burning Candle」「To Love Somebody」「The Walls Fell Down」「Little Boy」とギブ兄弟の作品が計6曲収められています。

また、@ローさんにボネットがソロで出した「オンリー・ワン・ウーマン」のバージョンも現在CDヒア・カムズ・ザ・ナイトで入手可能であることを教えていただきました。@ローさん、ありがとうございました。

{Bee Gees Days}

 

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