【1972年3月】母と子の視聴室-『小さな恋のメロディ』オリジナル・サウンドトラック紹介
朝日新聞1972年3月「母と子の視聴室」より
大人たちが忘れたメルヘン
どんな人ももっている子ども時代の思い出——大人たちがいつしか心の引出しにしまい忘れているような恋のメルヘンをほのぼのと描いてみせたダニエル君とメロディちゃんの映画「小さな恋のメロディ」のサウンドトラック盤です。演奏しているのは今月来日するザ・ビー・ジーズ他のグループ。
物語がくりひろげられるのは南ロンドンの小学校。小さな恋人たちの結婚式で牧師役を引受けるのが、ガキ大将のオーンショー。同級生は立会人、新婚列車のトロッコは、野原へ向って出発します。レコードの音楽は、二人がデートする場面に登場する「若葉のころ」、メロディちゃんが金魚と対話するシーンの「メロディ・フェア」、タイトル・バックの「イン・ザ・モーニング」、ラストシーンの「ティーチ・ユア・チルドレン」など十四曲。映画は平均年齢二十七歳という若いスタッフでつくられた作品でしたが、その音楽も、とくに若い世代の母親向きといえるでしょう。(ポリドールMP二一七二=二千円)
1972年当時朝日新聞に連載されていた「母と子の視聴室」というコラムより。例によって典拠を書いてない切り抜きなのですが、記事中に「今月来日する」とあるので、1972年3月の記事であることがわかります。(ビー・ジーズは70年代には3年続けて来日していますから、この記事は1973 年夏、あるいは1974年秋のものとも考えられますが、前後関係からして、たぶん1972年3月であっていると推理しています)
実は公開当時、この映画は、1968年5月に起きたパリの5月革命にはじまる学生運動や既成価値に対する若者の造反映画の流れで論じられることも多かったのですが、宣伝巧者で知られた当時の日本ヘラルドは、イノセントな「少年と少女の初恋と夢」路線でひたすらに押して、この作品をもう少し普遍的なものとして定着させることに成功したのだと思います。
親の世代(中でも、豊かとはいいがたいメロディの家族)も愛情をこめて描かれていること、ビー・ジーズの音楽を通して「普遍的な時の流れを哀惜し、人生をいとおしむ視点が入っていること」などが、長い時を経て観てもこの作品が古びていない理由でしょう。
ラストシーンは、反抗の場面というよりファンタジーの世界。ふたりは、級友たちの祝福を受け、ピンク色の花が咲き乱れる草原を地平線に向かってトロッコで走り出していった、ということだけが見えていれば良いのだと思います。あのあとふたりはどうなったか、なんて考えるのは野暮ってもんさ。
その後、ジャック・ワイルドが『続・小さな恋のメロディ』で、その野暮な後日談を企画。昨年の来日時にトレーシー・ハイドちゃんに聞いたところ、なんと彼女の役の設定は「生活に疲れた主婦」だったそうです。マーク君もトレーシーちゃんも、「あの企画が実現しなくてよかったと思う」という点で筆者と同意見でした。
{Bee Gees Days}
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