『救いの鐘~ロビン・ギブ・アーリー・ワークス・コレクション』Volkskrant紙レビュー
『救いの鐘~ロビン・ギブ・アーリー・ワークス・コレクション』Volkskrant紙レビュー
オランダのVolkskrant紙(オンライン版2015年8月15日付)に『救いの鐘~ロビン・ギブ・アーリー・ワークス・コレクション』の4つ星レビューが掲載されました。コレクターやファンの間で高く評価されてきた「幻の名盤」ということで、未発表だった『シング・スローリー・シスターズ』に焦点をあて、ビーチボーイズの『スマイル』になぞらえつつ、アルバムのライナーノーツをさらに掘り下げた内容です。以下に簡単にまとめてご紹介します。
『シング・スローリー・シスターズ』はロビン・ギブの2枚目のソロアルバムになるはずだったが、ビージーズが再結成されたためにお蔵入りとなった。今回、それがボックスセットとして陽の目を見たわけである。
未発表作品は幻の名盤と見なされ、アーティストが偉大であればあるほど神話の色合いを帯びて、コレクターの間で出回るようになる。もっとも有名な例といえば、ブライアン・ウィルソンが2004年にまとめたビーチボーイズのアルバム『スマイル』だろう。『スマイル』ほど知られてはいないが、特に英国のメディアではそれにまさるとも劣らないほど特別視されているのがロビン・ギブの『シング・スローリー・シスターズ』だ。コレクターや熱心なファンの間ではその評価は神話の域に達していた。ただ、それを実証するだけの音源がなかったのも事実で、いわゆるテストプレスのようなものはあったが、マスターテープと呼べるものは存在せず、大半の音源が散逸してしまっていた。
今回のコレクションはプロデューサーのアンドルー・サンドヴァルが10年余の歳月をかけてまとめあげた労作だ。1969年3月から1970年4月にかけての約1年間にロビン・ギブが素晴らしい音楽を作りあげていたことがわかる。バロックポップともいうべきこの作品群では、あの独特の高音のビブラートも聞くことができる。
当時のロビン・ギブは20歳になるかならないかの若さだった。ギブ兄弟がビージーズとしてヨーロッパのチャートを席巻した当時、彼らは20歳そこそこだったからだ(訳注:実際にはふたごのロビンとモーリスはなんとまだティーンエージャーでした)。「スピックス&スペックス」「マサチューセッツ」「ワーズ」などオーケストラを使用したドラマチックなポップソングで、イギリス出身の三兄弟は当時すでに不動の地位にあったビートルズに並ぶほどの人気を獲得するにいたった。
ビーチボーイズのウィルソン兄弟、ドンとフィルのエヴァリー兄弟(エヴァリー・ブラザース)同様に、ギブ兄弟の自然発生的なハーモニーは兄弟だからこそ可能なものだった。特に鋭いビブラートを帯びたロビンの高音は、独特の泣きむせぶような歌い方と豊饒なストリングスのアレンジもあいまって、ビージーズの歌に強烈なドラマ性を与えた。もともと多作だったギブ兄弟は3年足らずの間に4枚目のアルバムをレコーディングしたが、1969年に発表した仰々しい赤いベルベットのジャケットの二枚組『オデッサ』が不協和音を生むことになった。
『オデッサ』は壮麗なバロックポップスの曲を集めたアルバムだった。当時のビージーズはピンク・フロイド等が創造していたサイケデリックロック音楽とバロックポップスの接点を探っていた。音楽だけでなく、お互いの関係性、世界との関わりにおいても、当時の彼らは手探り状態にあったといえる。帰英後いっきょにスターの座にかけのぼった若き兄弟は誘惑に満ちた世間のただ中でよりどころを求めていたのだ。
ロビンの曲「ランプの明り」ではなくバリーの「若葉のころ」がシングルに選ばれたことがきっかけとなって、ロビンはあふれる創作意欲のはけ口を求めてソロ活動を開始する。こうして発表されたシングル「救いの鐘」は世界的な大ヒットとなり、ここオランダでもナンバーワンにまでのぼりつめている。
しかし本家ビージーズ同様、ロビンのアルバム『救いの鐘(Robin’s Reign)』はアルバムからのシングルほどには成功できなかった。それでもなお、この時期のロビンの創造性には目を見張るものがあり、12分に及ぶ「ハドソンズ・フォールン・ウィンド」はクラシック色を帯びるなど、のちにアンフェタミンのせいと明かしたハイな状態もあってか、ロビンは実に果敢な挑戦を繰り広げている。
『シング・スローリー・シスターズ』の一連のレコーディングを特別なものにしているのは、ロビンが(ビージーズにおける作品以上に)暗い面を見せているということだろう。ここには憂い、孤独、悲しみがある。どの感情も、心の奥に切り込んでくるようなあのロビンの声で見事に表現されている。ケニー・クレイトンのアレンジがまたぴったりである。こうして『シング・スローリー・シスターズ』は素晴らしいアルバムとなった。同時にまたこれは悲しみに満ちたアルバムでもある。
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