バリー・ギブのソロコンサート・レポート
バリーのソロコンサートを見たアメリカのファンから長文のレポート/コンサート評が届きました。
できるだけ客観的に、事実に沿って書いてみようと思う。
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会場となったハードロック・ライブは5,000人収容のホール。ぱらぱら空席はあったが、チケットはふだんの5~10倍の値段で売られていたので、この経済状況では懐具合の良い人でさえ財布のひもが固かったと思うし、何かの事情で来られなかった人もいるだろう。トータルの観客数は軽く4,000/4,200を超えていたのではないか。
運よく、自宅はハードロックから15分ほどのところにある。だから移動に関してはまったく心配ないわけで、心配は懐具合だけ。それより本当に心配だったのは、払った分だけの内容のあるコンサートになるのだろうか、ということだった。週末の間にバリーがFacebookにアップした「Love & Hope」ボールでのライブ映像を見ていて、ますます心配になってきた。なんだか落ち着きがなく、おずおず、びくびくしている感じではないか。タオルやズボンで両手を拭くしぐさが頻繁に見られる。あまり長くライブから遠ざかるとどんなすごいパフォーマーにとっても痛手だ。バリーも例外ではなく、冷静に客観的に見られる人なら、それに気がつくはずだ。だから火曜の夜、私はほとんど期待もせずに会場に入った。せいぜい60分も歌ってくれればいいだろう。「Love & Hope」ボールのコンサートから考えて、ボルテージの低い雰囲気になるだろう。曲目も同じようなものの繰り返しなんだろうな。おそらく内容は土曜日のコンサートとまったく同じだろう、家に座ってブリッジをしているのに飽きた年寄り連中が会場に来ているんだろう、というのが私の予想だった。
結果をいうと、コンサートは90分ほど。ボルテージは高く、エネルギーにあふれたものだった。しかもコンサートで聴けるなんて夢にも思わなかったような曲が2曲も聴けたのだ。まあ確かに年寄りが多かった。いやあ、トシはとりたくないものだ。うちの13歳の娘がおそらく会場で一番若かったんじゃないだろうか。30代、40代の人もいた。そのひとりが2列前の酔っぱらったバカヤローで、絶対に席に座ろうとしないのだ。自宅にスタンガンを置いてきたのが悔やまれた一瞬である…あれさえあればなあ。一階席だが、あまり良い席とはいえなかった。行ったことのない会場の場合、どの席がよく見えるかというのは、行ってみないとわからないんだなあ。でも…でも…5分後には私はただただその場にいあわせることができた喜びを噛みしめていた!
さまざまな感情が去来した火曜の夜だった。会場に入ってすぐに気づいたのが天井の高いところから下がっているディスコのミラーボールだ。「ほんとかよ、安っぽいことをするなあ」というのが私の感想だった。バリーが出てきたのは8時20分ぐらい。ひとりでステージに歩み出るバリーを初めて目の当たりに見て、悲しくなった。バリーだけで、うしろからあとのふたりが出てこない光景を見てどう感じたか、とても言葉には表せない。最初の曲は「Jive Talkin’」。バリーの声が聞こえない。だがすぐにスタッフが気づいて、対処してくれた。バリーはやや落ち着かない様子で、もっとノッてくれという感じに観客を軽く挑発する。ほとんど満員の聴衆は最初はおぼつかない感じだったが、最後は総立ちになり、徐々に盛り上がっていった。「Lonely Days」が終わるころにはみんな大ノリだ。バリーもとにかくみんな楽しんでると感じたらしい。ようやくリラックスして、音楽とエネルギーの流れに身を任せ始めたように見えた。バリーは犬の名前(忘れてしまった)を出し、リンダ夫人との出会いについて語って、「First of May」がその犬に捧げられているというエピソードを話してくれた。こういう話をするんだから犬が好きなんだろうなと思った。
(短かったけれど)「The End of the World」と「How Can You Mend A Broken Heart」ではサマンサが素晴らしかった。もっともっとサマンサの歌を聴いて、歌手としてのサマンサを知りたいという気持ちにさせられた。「How Deep Is Your Love」でバリーは二~三度ファルセットに挑戦したが、やや不安定だった。この曲が終わるとまたもスタンディングオーベーション。「On Time」ではスティーブンがギターソロをばっちり2回入れて聞かせてくれた。スティーブンの声は初めて聞いたけれど、個人的にはモーリスの曲にはちょっとヘビーで、太く荒々しすぎる声のように感じた。ただ、これはモーリスの声になれちゃったせいかもしれないと思う。あとはおなじみの曲のオンパレードになったので、ちょっと眠くなってしまった。はっと目がさめたのは、バリーが「With The Sun In My Eyes」を歌います、と言ったときだ。私はすっかり目がさめてしまったが、他の人は逆にここで寝てしまったかも。この曲が思い出せない、知らないという人がほとんどだったかと思う。エンディングさえ知らないで、どこで曲が終わったかわかってない人も多かったようだ。続いて、ちょっと景気づけにアップテンポの曲がほしいところだったが、バリーはワラワラのエピソードとか、ところどころ聞き取れない話を少し披露してくれた。続いて「In The Morning」。ちょっとまわりがざわついてきた。周囲を見回して、ちょっとテンポが落ちたかなあ、だれてきた観客もいるかも、という気がした。ここで一発何かやって観客をガーンとひきつけてくれ、と思っていたら、「Spicks & Specks」。みんな手拍子だ。ときどきピアノの音が大きすぎてバリーの声が消されてしまう。なんとかしてくれないかと思っていたが、残念ながらこれは最後までこのままだった。続いて始まった曲はスティーブンが出だしを歌ったのだが、たいていの人が知らない感じだった。私も何の曲だかわからなくて、娘に「これなんて曲?」と聞かれても、さっぱりわからなかった。ところがイントロが終わって…「Every Christian Lion Hearted Man」…び、び、びっくり! 最後にこの曲がコンサートに登場してから…なんだ…40年ぐらい? 驚愕してすっかり目がさめてしまった。私は簡単にはおそれいったりしない性格だ。だが、この瞬間、根暗で悲観的なこの私もその晩の虜になったのだ!! その後、どの曲をやっても、もうバリーの勝ちだった。
それからコラボレーションしたアーティストの連呼があった。ダイアナ・ロスの名前も出た。二~三日後にこのハードロックに出演する予定だが、その時間にはぼくは寝てるでしょうね、という。そこでスペシャルゲストが紹介されたので、ダイアナか誰か翌週に登場予定のビッグアーティストを期待したが、ゲストというのはバックアップシンガーのベス・コーエンだった。誰だか知らない。「Island」と「Guilty」はまあまあ。ドリー・パートンやバーブラ・ストライザンドみたいに軽くてなめらかな声ではない。別にひどくはない…まあ…オーケーといったところか。次が「Words」。リンダに捧げる曲。リンダ夫人は座るのがきらいなので、どこかその辺に立っているのだそうだ。「ハードロック」はリンダ夫人にとって第二の我が家みたいなところなんだとか。それから子ども、孫、と増え続ける家族の話が出た。とってもおかしいとまではいかないけれど、ユーモラスな語り口だ。観客はバリーに「Words」を最後まで歌わせようとしない。最初の区切りまで来たところで15秒のスタンディングオーベーション。続いて二番目の区切りでまた10秒のスタンディングオーベーション。とうとうバリーもこれでは切りがない思ったらしく、観客が拍手するなかフィニッシュに入った。最後は観客も負けずに30秒のスタンディングオーベーションで「Words」が終わった。「Night Fever」でまたノリがもどってきた。ハードなファルセットもだいぶ力強くなってきた。コンサートのはじめほど不安定ではない。ソフトファルセットはまだいまいちだ。私は「バリー、これはダメだから今晩はファルセットはあきらめた方がいいんじゃないか」と思っていた。次が「More Than A Woman」。娘がクビをふっていやいやをしている。ジョニー・ロッカーズで食事をしてきたのだが、そこで「More Than A Woman」が6回もかかったのだ。タバレスのが5回、ビージーズのが1回。もう今晩はその曲は勘弁してくれよ~という気分であった。あのレストランでいったい誰があんなに「More Than」をかけまくったのか知りたいもんだ。この2曲のあと、また長いスタンディングオーベーション。もう何回スタンディングオーベーションがあったか数えきれなくなってきた。予想外の数だが、それを受けて当然のバリーでもあった。ここで弟たちへの献辞。アンディととても仲がよかったこと、愛すべき性格の持ち主だったモーリスのこと。ロブ(ロビンのことは繰り返しそう呼んでいた)は重い病気なので祈ってほしいこと、などなど。こんなところがある、あんなところがある、という性格の話になり、「みなさんは知らないけれど…ぼくたち、いろんなことをしたんです」。こうして始まったのが「Immortality」。バリーは「グッドナイト、来てくださってありがとう」と言ってステージを去っていった。
観客の中にはここで帰った人もいた。が、私はまだ終わっていないという気がして、帰る気になれなかった。あっさり退場したのがあやしい。それに土曜日のセットリストを知っていたということもある。これで終わりじゃないだろうという気もした。2分ののち、バリーはステージにもどってきて、また総立ちの拍手喝采を受けた。バリーはお嬢さんのアリの名前を挙げ、バンドメンバーの紹介をした。わかったのは「わざわざ遠方から来てくれた」と名前が出たジョン・マーチャントだけだった。続いてコンサートの締めくくりとして「Stayin’ Alive」。娘(やんちゃだけれど、大切ないとしい我が子である)が「1時間以上やったじゃない」と私の不見識を責めた。いいんだ、いいんだ。30分余計にやってくれたし、本当に素晴らしかった。もちろん、もっともっとやってほしかったけれど…これは観客の全員が同意見だったと思う。
コンサートのあいだじゅうバリーと観客の間であたたかで気持ちの良い交流が見られた。ステージに立っていることを楽しんでいる、観客の存在をありがたく思ってくれている、というのが感じられた。アーティストはこうあるべきだと思う。ときどき「こんちはっす」というぐらいで、あとは食べるためにしかたなくやってるというような態度をとるアーティストは尊敬できない。そんなアーティストのコンサートには二度と行かないし、CDも買わない。観客を大切な存在として扱ってほしい。観客あってのアーティストではないか。気のせいかもしれないけれど、バリーはこれをやってくれたし、火曜の夜のステージには観客とアーティストとのあいだの愛情の交歓があったと思う。
個人的には1997年ラスヴェガスでの「ワンナイトオンリー」コンサートをバリーの21日のコンサートと比較してしまう。妻の分と私の分、それぞれ300ドルのチケット代を払って、ずっと「ぼられた」と感じてきた。けれども21日の晩に、その三分の一の値段で――モーリスとロビンがいなかったとはいえ――15年後にやっと300ドル分のコンサートを堪能できたと感じることができた。これまでもけっこうきびしい意見をいってきた私だけれど、昨晩のバリーには感服せざるをえない。素晴らしかった!
いくら賞賛してもしきれない。私のような辛口の人間がいうのだから、とにかく素晴らしいコンサートだったことは間違いないのである!
(Bill Busch, South Florida, USA)
バリーのステージ、本当に大成功だったようで、他にも各紙に絶賛のコンサート評が載っていますが、やはり長年の大ファンによるレポートは臨場感にあふれていますね。その場にいたような気持ちになることができます。それにしても会場から15分のところに住んでいるなんてうらやましいですね~。(各紙のコンサート評も後ほどご紹介いたします)
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