【1977年8月】『ビー・ジーズ・グレイテスト・ライヴ』アルバム評

1977年7月21日発売の『ビー・ジーズ グレイテスト・ライヴ(原題Here At Last…Bee Gees Live)』のレビューザ・ミュージック誌9月号に掲載された小倉エージ氏のレビューです。

The Music レコードレビュー     ビー・ジーズ グレイテスト・ライブ

迫力に満ちたライブ盤の傑作

小倉エージ

これまで盛んに公演活動を行なってきたビー・ジーズだけに、ライブ・アルバムも珍しくないものだと思い込んでいたのだが、よくよく考えてみると、これは彼らにとってははじめてのライブ・アルバムにあたる。

ところで僕としては、はじめてのものだからだなどというよりも、ここ最近の彼らのステージ・ワークの噂を耳にするようになって以来。このライブ・アルバムの登場が楽しみでならず、ずっと待ち続けていたのである。

ところでビー・ジーズというと、75年に芸能生活20周年記念として『メイン・コース』を発表して以来、ソウル・ミュージック色を濃くし、ディスコ・スタイルのナンバーを相次いでヒットさせてきた。それもソウル・チャートにもランクさせるなど、ボズ・スキャッグス、ホール&オーツなどとともにホワイト・ソウルの第一人者として注目を集めるようにもなっていたのである。もっとも日本においては、かつての彼らのイメージが強すぎてか、もうひとつ受け入れられずに終っていたようであるが、それはともかくとして、彼らはレコードばかりでなくステージにおいてもサウンド・イメージを改め、ノリノリのステージを展開しているという話が伝えられてきたのである。それもゲストを加えることなく、アルバムと同じビー・ジーズ・バンドだけで。

さて、2枚組になっているこのライブ・アルバムのうち、1枚目のサイド①、②は、一時期活動を休止することになった頃までの初期ビー・ジーズの一連のヒット・ナンバーのオン・パレードなのだ。

それらの中での聴きものといえば、オープニングの「獄中の手紙」、さらに、メドレーとして続けられている「ワールド」や「ホリデイ」、さらに、「マサチューセッツ」や「ラブ・サムバディ」。そして、それらにおいてはあの独特のハーモニー、叙情味あふれるサウンドが聴かれるのであるが、かつてのものと較べると、余裕、ゆとりが感じられて、改めて彼らの成長ぶりを痛感させられる。

が、それらにも増してこのアルバムでの聴きもの、魅力であるのは、ここ一連のヒット・ナンバーを網羅した2枚目のレコードのサイド③、④だ。そこでは噂に伝え聴いていた通り、いや、それ以上にエネルギッシュでダイナミックで迫力のある歌、演奏が聴かれる。さらに、いくらか無機質でクールな印象を与えられるスタジオ作に較べて、ホットなものであるということ、さらに心の暖かみ、ぬくもりが感じられてくるのである。そうしたディスコ・スタイルのナンバーをバラードの「ロンリー・デイ」でしめくくっているのが彼ららしく、興味深い。

1974年秋、来日中のロビンと話したときに、彼が教えてくれた今後の予定はーー

1.1975年春にニューヨークで”芸能生活20周年”を祝う
2.75年初頭からマイアミにあるエリック・クラプトンがアルバム『461オーシャン・ブールヴァード』を録音した(ロビンいわく、「ジャケットにある白い家」)でニューアルバムのレコーディング作業にかかる。
3.76年にはまた来日公演を行う。

このうち、1と2はこの好意的なレビュー(にこにこ…)にもある通り実現しましたが、残念至極、3だけは実現しませんでした(涙)。75年初夏から秋にかけて新作『メイン・コース』を引っ提げての大々的な北米ツアーが行なわれたものの、以降、この『グレイテスト・ライヴ』となった短いツアー以外は79年のSpiritsツアーまで、70年代後半のビー・ジーズはあまりに多忙でツアーらしいツアーをしていません。

当時の彼らの円熟期に差し掛かったライヴ・パフォーマンスの見事さを考えると、これは惜しかったなあと思います。

ふたごのロビンとモーリスが10代の時に発表された60年代後半のヒットの数々を約10年の時と経験を経て、さらに研鑽した技量をもって、変わらぬ誠実さで歌うこのアルバムのライヴは、いつ聴いても変わらない美しさに満ちています。

同時に、このレビューにもあるように、あたたかさを感じさせるのが彼らのライヴの特徴で、とてもクールに完璧を期して作られたこのアルバムの音からもその人間的なあたたかさ(それに悲しい曲では心の痛みが)伝わってきます。

このアルバムについては、完璧を期して一部音の修正が行なわれたようですが、その後ブートレグで出回った元の音源と聴き比べてみても、さほど違いはありません。このツアーを体験した何人かのアメリカのファンから送ってもらっていたオーディエンス録音も、どれを聴いても見事なものでした。「あとで聴くと自分でもびっくりするほど(うまい)」と発言したこともあるビー・ジーズの実力を聴き知ることのできる名盤です。

以前に書いたかもしれませんが、数年前に「70年代はじめに結婚式に出席したらギブ3兄弟も列席していて、その場で立ち上がってアカペラで歌ってくれた」という体験をツイートしてくださっていたイギリスの方がいました。テレビのトークショーなどでもいきなりバリーのギター1本で歌うパフォーマンスなどを繰りかえし披露しているビー・ジーズは、パフォーマーとしても本当にすごい!

それにしても、このようなライヴ・アルバムを「待ち望んでいた」と書いていただけると嬉しいですね!

ところで私は発表当初から、このアルバムの原タイトルが大好きでした。”Here At Last”は直訳すれば「ついに登場」で、とうとう噂の名ライヴが発売された、という意味なのでしょうが、同時に、このHereには、「とうとうここにやって来た」という意味合いが込められていると思います。つまり、「とうとうビー・ジーズがここに」という、なんというか臨場感のあるタイトルなのです。「ああ、とうとう、いまあなたの前でビー・ジーズが生で歌ってくれるんですよ」という感じでしょうか。

余談ですが、少し前の記事で当時の記事には誤植が多いと書きましたが、このレビューなんかアルバムタイトルが違っている…。(「ライヴ」が「ライブ」になっている) これなんか本質的なミスではありませんが。バージョンもヴァージョンも、ボーカルもヴォーカルも、カバーもカヴァーも、バリーもヴァリーも、別に変わりませんからね。(あ、最後の例だけは違うか…)そんな意味で本質的な、というか、大きなミスがあった73年来日時に日本で制作されたパンフレットは実にひどかったですね。(このことはいつか書こうっと、と思っています)

{Bee Gees Days}

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