バリー・ギブ『イン・ザ・ナウ』ロング・インタビューbyティム・ロクスボロPart2

バリーがシングル化を希望していたという
アルバム『ハイ・シヴィライゼーション』のタイトルトラック

ニュージーランドのジャーナリスト、ティム・ロクスボロによる連載ロング・インタビュー・シリーズのパート2は「ハイ・シヴィライゼーション」についてです。

パート2
バリー・ギブ「ハイ・シヴィライゼーション」って曲としてヒットすると思ったんだけどなあ」


パート1にも書いたように、このレポートにまとめた内容は僕のラジオ番組で紹介する内容や、僕がこのインタビューをもとに新聞や雑誌に書いた記事とは少し違っている。ここに掲載する内容は、特に熱心なビージーズ・ファン向けのものだ。

この“ティム・ロクスボロのバリー・ギブ『イン・ザ・ナウ』インタビュー【パート2】”では、ロビンはアルバムにできるだけ多くの曲を入れたがったけれど、バリーは「曲を少なく」派だったことが話題になった箇所を紹介する。バリーは、シングルにしていたらヒットしただろうと思っているという曲を2~3曲あげてくれたけれど、そのうち「ハイ・シヴィライゼーション」(アルバムではなく曲)はラジオでかかるには「抽象的」過ぎたかもしれないとも認めていた。

どの曲をシングルにしたらいいかについて、ちょっと趣味の領域になるが、僕の意見をいおう。どこからはじめようか。ファンの中では少数派だが、僕はアルバム『ハイ・シヴィライゼーション』(1991年)が大好きである。一部の歌では長すぎるイントロがネックになっているかもしれないが、ソングライティング、リズム、メロディはパワフルどころではない。とにかく非常に面白いのだ。そのわずか4年前に「ユー・ウィン・アゲイン」(1987年)の有名なドッシンドッシンという足踏みが大評判になったので、バリーは『ハイ・シヴィライゼーション』の重たい電子的なガッシン、ガッシンというサウンドも同じようにうけるのではないかと考えたのかもしれない。オフビートなコーラスもユニークで、なぜか、子どものときよりも大人になってからますます好きになる曲である。

個人的には、「チェイン・リアクション」を思わせる「シークレット・ラヴ」がシングルとしてベスト・チョイスで、ロビンは正しかったと思う。この曲はイギリスでトップ5入りして、ドイツでは2位にまでのぼりつめた。しかし、別に二者択一でもなかったろうに。アメリカでの成否に関するかぎり、おそらく問題は、「シークレット・ラヴ」ではなく「ホエン・ヒーズ・ゴーン」の方がプロモートされたことにある。これは同じようなサウンドの「チェイン・リアクション」(ダイアナ・ロス、1985年、ビー・ジーズが楽曲提供)がイギリスでナンバーワンになったのにアメリカではうけなかったためだろう。

むろん、これはあくまで僕の推測だが、このところ『ハイ・シヴィライゼーション』を聴いていないという人は、ぜひもう一度聴いてみてほしい。「ホエン・ヒーズ・ゴーン」「ハッピー・エヴァー・アフター」「ジ・オンリー・ラヴ」はきわだったフックがあり、ハーモニーがいっぱいの素晴らしいギブ・ソングである。ビー・ジーズのR&Bトラックとしてダークホース的存在である「ゴースト・トレイン」と「パーティ・ウィズ・ノー・ネーム」もあまり話題にならないが、アイディアがいっぱい(たとえば「ゴースト・トレイン」の最後、マッチを擦る音に続くドラム・ループなどがそうだ)で、当時としては非常にモダンなプロダクションになっている。

さて、ここで話を10年先に進めると、僕は常々、『ディス・イズ・ホエア・アイ・ケイム・イン』(2001年)の中の「デジャ・ヴ」は三兄弟がそろってレコーディングしなおして、シングル化されるべきだったと思っている。スマッシュヒット向きの派手なフックがあるのだから。ロビンがアルバム用に作ったソロ曲のひとつだったということで考慮されなかったのだろうか。このプロジェクトについてあまり知らない人のために説明すると、このアルバムはソロEP3枚にグループの曲を何曲か追加して、ビー・ジーズとして1枚のアルバムにまとめたというのに近い。「デジャ・ヴ」は良い曲だっけれど、もしバリーとモーリスも参加していたらどんなに良かったか、想像してみてほしい

さらに90年代のアルバム『サイズ・イズント・エヴリシング』(1993年)と『スティル・ウォーターズ』(1997年)に入らなかった曲の中には、後期のギブ・ソングの最高傑作がある。「マイ・デスティニー」(1993年)、「リングズ・アラウンド・ザ・ムーン」(1997年)、その他にももっと何曲もあるのだ。けれども今回のインタビューでバリーが笑いながらいったように、「今となってはもう過去は変えられない!」。確かにバリーのいう通りなのだが、「もし…だったら」と考えてみるのも時には面白い。
今回のインタビューは、バリーが『イン・ザ・ナウ』には捨て曲が一曲もないと思っている、というところから。

バリー: ティム、今回は数をそろえるためだけに入れた曲なんかないよ!(笑)
TR: 捨て曲なしのキラーぞろい、それはすごい! とにかくあなたのアルバムには埋め草的な曲なんかありませんよね。
バリー: うーん、そうねえ(非難がましい口調で)それは、いっつもあったなあ。みんなみんな愛着があるからなあ…。
TR:(笑)
バリー:…僕たちの曲でも…ロビンは「過ぎたるは及ばざるがごとし」じゃなくて、いつもアルバムの曲は多ければ多いほどいいという考えだった。ロビンらしいよね。
TR: それはごく初期からですか? それとも入れなくてもよかったのにというような余分な曲が入っていると思うのは、後年のビージーズのアルバムのこと?
バリー: うん、後期のアルバム2枚ぐらいには、僕だったら入れなかったなあと思うような曲が入っているんだけれど、僕たちはとにかく全員が賛成しなければ何もしないというやりかただったから。ロビンは曲を増やしたがった。たとえばロビンはビー・ジーズとしても「ハートブレイカー」をレコーディングしたがったんだけど、僕はそうする意味がないと思っていた。ロビンは「アイランズ・イン・ザ・ストリーム」もやりたがっていて、結局やったわけだけど、僕はあれも特に必要を感じなかった。でもロビンが決めることだからね。
TR:でも、まあ僕も客観的とは言い難いわけですが、「マイ・デスティニー」とか「855-7019」とか、「ああ、こんなすごい曲がアルバムに入らなかったなんて!」と思っちゃう曲があるんですよね。
バリー:うーん、その辺は説明できないなあ。アルバムに入れた「ウェディング・デイ」という曲があるんだけど、僕自身はあれはシングルヒットしたんじゃないかと思ってるけど、レコード会社がシングルに選ばなかった。僕が選ぶんじゃないからね。人が、これはラジオでかかるな、と判断すれば、それに左右されたりするんだよ。

僕自身は「ハイ・シヴィライゼーション」という曲は全員がプッシュすればビッグヒットになったんじゃないかとずっと思ってたんだけど、ロビンが希望したのは…「シークレット・ラヴ」だった。ロビンが「あれはヒットするよっていって、出したがったんだよ。確かにまあ、ヒットはしたんだけれど、トップ5ぐらいかな。で、今になって思うと、「ハイ・シヴィライゼーション」はシングルにはちょっと抽象的すぎたかなあとも思う。どうなんだろうね。どっちにしてももう過去は変えられないしね!(笑)

「曲は多い方がいい」派だったロビンと「過ぎたるは及ばざるがごとし」派だったバリー。みなさんはいかがですか? アルバム『ハイ・シヴィライゼーション』からのシングルはどれが良かったのでしょうか。しかし個人的にはビージーズ版の「ハートブレイカー」をあの厚いコーラスで聴いてみたかった!

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