スペンサー・ギブ、「ラン・トゥ・ミー」を語る

両親と一緒のスペンサー・ギブ(1973年

モリー夫人(当時)とスペンサー君と一緒のロビン(1973年)

ロビン・ギブの長男、最初の結婚(1968~1980)でモリー夫人との間に生まれたスペンサー・ギブはこの9月21日で40歳になりました。ギブ家の第二世代の中ではモーリス家のサマンサと並んでもっともキャリアを重ねたミュージシャンといえるでしょう。

その彼が唯一、ビージーズのレパートリーに挑戦した「ラン・トゥ・ミー」(アルバム「ア・ソング・フォー・マイ・ファーザー 」所収)について、常に親に比較される“七光り世代”の苦しみなどについて語った2007年のインタビュー(シカゴ・サンタイムズ紙2007年6月17日付)の内容を簡単にまとめてご紹介します。

右の写真はまだミュージシャンになる前(?)、両親と一緒のスペンサー・ギブ(当時1歳)です。

 テキサス州オースティン。車で移動中のスペンサー・ギブは、ため息をつき、考え考え話してくれた。父親であるビージーズのロビン・ギブとの関係はとても微妙なものらしい。「みんなぼくみたいな立場だと楽だろうなと思うみたいだけど」そんなことまったくないそうだ。大スターの二世なら、蝶よ花よ、乱痴気パーティよ、という暮らしをして、すべてが思いのままなんだろうなと思われがちだが、現実は大違いだという。

「みんなこっちの素性を知ってるから色眼鏡で見られちゃう。クラブで演奏したりすればすぐに”すごいんだろうな”と期待されちゃうし。まあ、おかげで夢中になって練習して腕を磨いたけどね。とにかく最初からハードルがあるから、それを越えて実際にこっちの演奏を聴いてもらうとこまでいけたら、それだけで万々歳さ」

 何しろ伝説的な格のポップスターの息子である。ポップス以外の分野でのキャリアを考えるか。親が金持ちだったら、そもそもキャリアなんて考える必要もないかも。それとも遺伝子の命じるまま、やはり音楽業界にチャレンジするだろうか。

 有名スターの子どもたちはだいたいこのどれかの道を行くわけだが、中で少なくとも14人はファミリービジネスともいえる音楽界に飛び込んで、今回の「ア・ソング・フォー・マイ・ファーザー」というアルバムプロジェクトに参加したわけである。

「こういう話はしょっちゅうあったんだよ。でもぼく自身もバンド(54セカンズ)もビージーズの名前を利用したいとは思ってなかったから、一度も受けたことがない。みんな、なんかショボい企画だったしね。でも今回のはちゃんとした企画だった。ちゃんとこちらにクリエーターとしての裁量権があるし、ちゃんとした理由もある企画だ。”ねえ、ちょっと『Stayin’ Alive』をやってくれないかな”と言われたり、ビーチボーイズの息子に『グッド・バイブレーション』を歌わせようや、と言うような企画じゃないんだ」

ただ、それが逆に大変ではあったそうだ。スペンサーはどの曲を選んでレコーディングしようかと苦慮したという。選んだのは1972年にビージーズがトップ20に送り込んだ「ラン・トゥ・ミー」。

「最初は、おれたちのバンドにはあんまりかなとも思った。もともと60年代風のメランコリーをウリにしてたからね。だから逆にすごく有名な曲を使って、完璧にひねってみたかった。そうして苦労に苦労を重ねて、スタジオでいろんな曲を試したんだけど、なんだか逆に無理してる気がした。結局、いつも『ラン・トゥ・ミー』に戻っちゃうんだ」

 で、お父さんのロビンの意見は?

「びっくりしたんだけど、すごく気に入ってくれたんだよね。親父はだいたいカバーバージョンにはきびしいのにさ。それからもうひとつびっくりしたことがあった。『ラン・トゥ・ミー』はおれが生まれたときにヒットしてたシングルなんだって。そんなこと知らなかった。単に個人的に好きな曲ってだけだったから。親父はおれが生まれたとき、留守だったんだけど、なんとアメリカで『ラン・トゥ・ミー』のプロモーションをしてたからなんだってさ」 

二世ミュージシャンを集めて親の名曲を演奏させたこのアルバムは、企画者によれば「スターである親にオマージュを捧げると同時に自己表現してもらいたい」という狙いで企画されたそうですが、期待を上回る仕上がりになったそうです。スペンサー・ギブの「ラン・トゥ・ミー」はダウンロードシングル(Run To Me )としても購入が可能です。

”悲しいとき、苦しいとき、いつでも力になるから、ぼくのところにかけておいで”と歌う「ラン・トゥ・ミー」はきれいなラブソングですが、「時には年上の人間が必要になることもあるだろう」という一節がある通り、ボブ・ディランの「フォーエバー・ヤング」のように幼い子どもの将来を見つめる親の視点も感じられます。ロビンにとっては「初めて父親になった大切な思い出の曲」ということで、アルバム『ミソロジー』のロビンのディスクにも選ばれています。

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