デイヴィッド・マイヤー著『Bee Gees:The Biography』–自称(?)辛口伝記を辛口に(?)ご紹介

新着の伝記の表紙(2013年7月刊)

新しい伝記の表紙 (2013年7月刊)

何度か予定が延びていたDavid Meyer著の評伝『The Bee Gees: The Biography』(Kindle版はThe Bee Gees: The Biography)が今月初めについに刊行されました。刊行にかなり先だってバリーが「ギブ家の人間は誰ひとり取材に協力していない」と非公認の伝記である点をツイッター発言で強調してファンに不買を呼びかけたことや、かなり辛口の評伝であるように事前に宣伝されたこともあって、通りいっぺんの内容が多かったこれまでのビージーズものにない鋭い切り口が見られるのかもしれない、という期待が一部にはありました。

けれども結論からいうと、読んだ人の感想は一様に芳しくなく、ファンであればあるほど、おそらく不満を持つ内容であると思われます。それは内容が辛口だから、ではなく、びっくりするほど事実関係の誤認や誤記が多いからです。どうもインターネットなどで簡単に入手できる資料からの孫引きが多いようですが、やはり本の形にする前にしっかりチェックするべきだったと言わざるをえません。(アンディの目が「輝く青」だったと書かれているのなどは、まあご愛嬌ですが)

最初は驚いて間違いを見つけるたびにしるしをつけていたのですが、あまり多いので途中で止めました。作者はプロの書き手で、前作ではグラム・パーソンズを取り上げ、厚みのある人物像を描いてみせた、という前評判だったのですが、ビージーズに関してはあまりにも勉強不足であるという印象です。確かに辛口な部分も多いのですが、それは単に著者の意見という印象で、根拠は提示されず、「こんなに勉強不足(ビージーズについて書くなら当然知っていていいようなことを知らない)の人にそんなこと言われてもなあ」という印象になってしまうのも事実。

もっとも悪い点ばかり書きましたが、一部には興味深い事実や、曲の分析なども書かれていますので、「大ファン」の方にはおすすめします。「彼らについてもっと詳しく知りたい」という程度の方には、うーん、はっきり言っておすすめしません。大ファンの方もこれから買われる場合にはKindle版にしておいた方が無難かもしれません。

ビージーズが歴史に名を刻むグループである以上、本当の意味での(単にほめるだけではない客観性のある)愛情を持って、データ面でもしっかりと充実した評伝が出てくることを、今後に期待したいと思います。

残念なことに間に合いませんでしたが、一時ロビンが自伝に取り組んでおり、日本版についても相談を受けていました。最近ではバリーも「少しずつ書いている」とインタビューで述べています。ただ、本人が語る本人の物語にはある種の粉飾や斟酌がつきものですから、第三者による敬意と客観性の両立した作品もぜひ出てほしいものです。

なお、今年のはじめには音楽プロデューサーとしても知られるアンドルー・サンドーバルがまさに労作といえる『Bee Gees: The Day-By-Day Story, 1945-1972』(キンドル版Bee Gees: The Day-By-Day Story, 1945-1972 )を発表しています。初期ビージーズの足取りを綿密に再構成した内容で、貴重な情報も多く網羅されており、こちらはファン必携です。著者のサンドーバルはライノからのリイシューに貢献し、力作というにふさわしい名ボックスセット『Studio Albums 1967-68 』のライナーノーツでビージーズを取材した人ですから、ビージーズへのひとかたならぬ敬愛の念が感じられるのも読んでいて嬉しいところです。この作品については、もっと詳しくご紹介したいと思いながら日が経ってしまいましたが、キンドル版でも簡単に入手可能になったことでもあり、近くもう少し丁寧にご紹介したいと思います。

これでビージーズ出版ブームなんてのが来たら嬉しいですね。ビージーズは、まだまだ真摯にその価値を論じられることが少なすぎるように思います。

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